憂鬱な棺屋


 クリフォードは、つい先日に亡くなった、祖父の身体を入れるための棺のカタログを、 俯きながら見ていた。クリフォードの隣には、おおかたセールスマン風のブレザーを着こ なした、でぶでぶと太った棺の販売員がいる。二人とも、ゆったりとしたソファーに座っ ているのだが、クリフォードはまるで銅像がソファーの上に置かれているかのように、ず っしりとソファーに身を沈めていた。
「この棺はどうですかね?」男はカタログを指差して言った。「この棺は特殊な樹脂でで きていて、雨風から体を守ります。つまり、骨は土に返らず、永遠にお父さんと同じ形を 保っていられるのですよ」
 クリフォードは爪を噛みながら断った。「ちゃんと土に返れるような棺にしてくれ。そ れと、余計なオプションはいらない。全部土に返ればいいんだ。それに予算もない。高級 な棺もいらない」
「では、この棺はどうでしょう? この棺は一見黒檀ですが、安めの素材に土に溶けやす い塗料を塗っています。そのため、お値段の方もお手ごろですよ」男はまるでブルドック を強引に笑わせたかのような顔をした。
「好きにしてくれ。予算がないんだ。安くて土に返ればなんでもいい」
「わかりました。ではそれにしておきましょう。お金の方は最初から決まっている通り、 小切手で?」と男が言うと、クリフォードは頷いた。
 男はまるで相棒のような計算機を、ブレザーの内ポケットから取り出し、人差し指に力 をこめてボタンを叩き始めた。やがて計算が終わると、男はクリフォードに計算機に表示 されている数字を見せ、言った。「今月はセールの最中ですので十パーセントほど差し引 いた値段となります」クリフォードはそれでいい、と言った。
「少々お待ちください。手続き用の用紙を持ってきます」男は席を立ち、革靴が大理石の 床を蹴る音を残してどこかへ行ってしまった。クリフォードは手で顔を覆い、顔全体を撫 で回した。そして、肺にある空気をすべて吐き出すかのような大きい深呼吸をすると、男 は親指の爪を噛み始めた。男の指は綺麗だった。



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