烏


 暗くなった団地を練り歩く勇次には家々から漏れる光がとても暗く見えた。今日、勇次 が通っている仕事場から女性社員が一人いなくなったからである。
 勇次はまっすぐ家路につくのではなく、途中にあるコンビニに立ち寄った。勇次はさも 常連と思わせるような足取りでカルボナーラとおにぎり、愛飲している雪印のコーヒーを 手に取り、それらをレジに出す。ほぼ毎日行っていることなので、自然と財布に手が伸び、 小銭を取り出していた。勇次にとってまるでそれが生活、体の一部のようなもので、間髪 を入れる間もなく勇次は食料が入った袋を受け取り、とっととコンビニから出た。

 勇次の住まいは、七階建てマンションの五〇五号室。普通の間取りで、どこのマンショ ンでも見られるような、いわば標準的な間取りである。
 小さなベルの音とともに、勇次は俯きつつエレベータから降りる。外では風が吹き荒れ、 風は瞬く間に勇次を向かいいれた。いつもの冬のように、風は勇次を向かいいれた。勇次 は自分の部屋へと向かうべく歩き始める。勇次の重苦しい哀愁のある足取りは徐々に部屋 へと近づいていた。
 勇次は通路を進みながらズボンのポケットを探り、勇次だけの鍵を手に取った。勇次は 自分の家のドアが近づくと、やっと顔を上げた。勇次は目を凝らした。ドアを二つ通り過 ぎたところで二つの滲んだ黒が踊っているのが勇次の目に映った。踊っているのはカラス とネズミだった。
 カラスは舐るかのようにネズミを突きまわし、ネズミはそれから逃げるように体をばた つかせていた。ネズミはまりのように跳ね回り、弾き飛ばされている光景は、子供がボー ルで遊んでいる姿と酷似していた。ネズミはカラスに突かれるたんびに、ビニールのおも ちゃが鳴くような、よく通った高い声を辺りに響かせていた。
 勇次はその異様な光景を、ヤスデの群れを見るかのような不快な目つきで当分観察した 後、家の鍵を開けて家の中に入っていった。



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