Killer Alone

 背の高い民家が迷路のように入り組み、盗人がどこに隠れていてもおかしくないような薄暗さを醸し出すスラム街。何のためにあるのかわからない道や、民家、道路のど真ん中に設置された公衆便所など、不衛生極まりないように見えるが、足元を見ると不思議なことに、タバコの吸殻や広告のチラシなどの些細な物しか落ちていない。
 レンガのような物で敷き詰められた道路はところどころが凸凹だが、歩く際には差し支えのない程度に舗装されている。しかし、たまに車のタイヤをパンクさせるためにあるのか、針のような物がさりげなく地面から突き出ていた。それに対し、隙間なく並んだ民家には適当な距離で扉がつけられている。適当な距離も本当に適当で、扉から扉までの距離が1インチもなかったり、50ヤード以上歩いても扉が見つからない時もある。
 砂漠化のように、常に増殖し続けているスラム街に、エトヴィーンと呼ばれる少年が大きなリュックを背負い、森の中の像の如く、弾丸黒子の道を孤独に歩んでいる。エトヴィーンは十四歳になるまでは親元で暮らしていた。それ以降はこのざまだ。
 そんなエトヴィーンもあることは心がけていた。自分の身は自分で守ろうとするべく、右側の腰にホルスターをぶら下げ、拳銃を挿している。拳銃には9ミリ×19のパラベラム弾が装填されている。さほど威力は高くない、どこにでも売っているような標準的な弾だ。

 エトヴィーンは人の気配を感じた。気配と言うより足音だ。エトヴィーンは右手を僅かながら曲げ、いつでもホルスターに挿してある拳銃を抜けるように気を引き締めた。
 角を左に曲がった瞬間、馬が馬蹄を地面に叩きつけ、アスファルトを駆け抜けるような音がした。
 エトヴィーンは三歩目で振り返り、それと同時に拳銃を右手で抜き、身を大きく翻した。そのすぐ後に角から人が飛び出してきた。エトヴィーンは照準が合う少し前に引き金を引いた。その瞬間、弾丸が銃口から飛び出し、薬莢が排出された。弾丸は飛び出してきた人間のど頭をほんの少し真上で通過した。
「わ!」
 飛び出してきた人間はそう喘ぎ、そのままバランスを崩して尻餅をついた。飛び出してきた人間はすぐに起きようとしたが、目の前にいる少年が頭に狙いをつけ「動くな!」と警告されたおかげで動こうにも動けなかった。
 エトヴィーンは飛び出してきた人間をよく見てみた。驚くことに十代半ばぐらいの金髪の少女だ。美人と言えるほど年は食っておらず、むしろかわいいと言う表現が妥当だ。薄い茶色のキャミソールがエトヴィーンの目をやや惹いた。エトヴィーンは少女に言った。
「武器を捨てて手を上げてください」
 少女は座ったままゆっくりと手を上げた。
「立って後ろを向いてください」
 少女は操り人形のようにぎこちない動作で立ち上がり、エトヴィーンに背を向けた。
 エトヴィーンは拳銃の照準を少女に合わせたまま音を立てずに下がっていった。そのため少女が後ろを振り向いた時には、すでに銃を突きつけていた少年はどこにもいなかった。

 エトヴィーンは10ガロン(※この世界の通貨単位。ガロン、クォートの順に価値がある)ほどの端た金を払って小さなホテルにチェックインした。こぢんまりとした小さなホテルだが、カウンターだけは立派だ。
 エトヴィーンが泊まった部屋は、暗い室内、締め切った窓、じめじめしているコンクリートの床、黄ばんだキルトが掛かったベッド、古ぼけた小さな円卓、そして小さな部屋。エトヴィーンは刑務所に入れられたのかと錯覚した。
 とりあえず、エトヴィーンは肩からリュックを下ろて床に置き、すぐに部屋の奥にある窓を開けて大きな深呼吸をした。
 その後、エトヴィーンは明かりのスイッチを捜し明かりをつけた。部屋はスズランのようなシャンデリアから発せられた光で照らされ、無機質な部屋がいっそう刑務所のように見えるようになった。唯一、有機物であるのが木製のベッド一式と木製の円卓。それ以外はエトヴィーンだけだ。
 エトヴィーンは明かりをつけた帰り際に、コートを脱いで丸め、ベルトについているいろいろな物を取り外して円卓の上に置いた。細長いマガジンポーチが四点、ホルスターが一点、小さなハンドナイフが一点、コートが一点。合計七点の品物を円卓の上に置いた。
 そのままエトヴィーンはベッドの方まで歩いていくと、エトヴィーンはベッドに吸い込まれるかのように倒れ、空気が抜けた風船のように眠りこけた。

 翌朝のスラム街。
 スラム街は早朝でまだ暗く、じめじめしているが気温は二十度前後で適度に暖かく適度に涼しい状態だ。もともと砂漠のような熱帯気候の地域だが、ここは別だ。砂漠のように昼は焼けたフライパンの如く暑いわけでもなく、夜は死の芸術を見られる程度まで冷え込むことはない。
 エトヴィーンが泊まるホテルに昨日の少女が入っていった。エトヴィーンの部屋は四階、少女が向かっているのは五階。つまりエトヴィーンの部屋の真上だ。
 少女が五階まで登り、部屋の扉を開けた。だが、そこにいたのはエトヴィーンだ。ベッドの上でくつろいでいる。少女は何がなんだかわけがわからなくなり、とりあえず扉を閉めた。
 なんで昨日の奴がここにいるの? ここは五階のはずだけど何で? 一応私が借りてる部屋なのに。
 少女はひどく混迷していた。すると、突然少女に向かってドアが近づいてきた。鈍い音が鳴ると、少女の頭に激痛が走った。目の前がふらふらして、歪んで、そして暗転した。




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