大道芸
大きな舗装された道路に、辺り一面の砂漠。黄色い大地に一本のグレーの線が延びている。
地平線は陽炎で揺れ、たまに見える巨大な岩山が蜃気楼のように見える。
太陽は真上に昇り、さんさんと大地を照りつけていた。
そこに一人のピエロが道路の脇に立っている。その傍らには白いワゴンが止めてある。
ピエロはデビルスティックと呼ばれているジャグリングをしている。二本の棒を使い、一本の棒を叩きながら宙に浮かす芸だ。
ピエロは二本の棒を巧みに操り、魔法を掛けたかのように一本の棒を操っている。それは自由自在に宙を飛び回り、棒にコーティングされたシールが太陽光を乱反射していた。
一台の装甲バンが、目玉焼きが焼けそうなアスファルトの道路を駆け抜けていた。
装甲バンの運転手は、エトヴィーンと呼ばれる少年だ。
その隣には、エレナと呼ばれる少女が座っている。
車内はクーラーをガンガンに掛け、砂漠の暑さをしのぐためには、とても快適な空間となっている。
「ねえ、あそこに人がいるよ」
助手席に座っている少女が言った。
長く続く道路の端に、一人の人間と一台の車が止まっている。
「止まります?」
と少年。
「三日も人に遭ってないんだから、止まるべきでしょ?」
「何かを売りつけられても買いませんよ」
「はいはい」
少女は何を今更と言わんばかりの表情をし、言った。
ピエロは黙々と棒を使って棒を振り回している。その姿を、エトヴィーンは運転席で、エレナは助手席から見ている。
装甲バンの運転席側の窓は全開に開けられ、室内の冷気が室外に逃げ出し、室外の熱気が室内に入り込んでいた。
ピエロが大技を繰り出すたんびに、助手席から静かな拍手が巻き起こる。
棒が棒を叩きつける爽快な木の音が、静かな砂漠に響き渡っている。
すると、ピエロは一区切り終えたのか、ワゴンまで歩き、車内にデビルスティック一式を放り込んだ。その代わり、中からボールを数個引っ張り出した。
ピエロはエレナたちに会釈すると、ボールを真上に投げた。
最初は一個ずつ宙に浮いていたが、いつの間にか、二個、三個、四個と増えていき、ついにはナイフまでもが宙に浮いていた。
また砂漠に小さな拍手が巻き起こった。
少し時間が経つと、宙に浮いていたものをキャッチし、どこかへ放り投げた。またワゴンの中から何かを引っ張り出した。
三本のチェーンソーと木の棒だ。
ピエロはそれぞれのチェーンソーのエンジンをふかした。砂漠にはチェーンソーのうなり声が響き渡る。
チェーンソーのエンジンが点くと、ピエロはそれを足元に置く。これを三回繰り返した。
そして、ピエロは足元に置いたチェーンソーを持ち、木の棒を切断した。これも三回繰り返す。
すべてのチェーンソーが危険なことを知らしめると、ピエロは会釈した。
右手と左手にチェーンソーを持ち、足元に一つのチェーンソーが置いてある。
そして、ピエロは右手に持っていたチェーンソーを、砂漠の虚空に放り投げた。
すぐさま置いてあったチェーンソーを右手で持ち、左手に持っているチェーンソーを投げる。
間髪を入れずに右手のチェーンソーを投げると、左手で落ちてきたチェーンソーをキャッチする。
キャッチしたチェーンソーはすぐに放り投げられ、右手でチェーンソーをキャッチ。また放り投げられ、左手でキャッチ。これが何度も繰り返された。
エレナはその姿を唖然として見ていた。しかし、エトヴィーンはまったく表情を変えない。
やがて、ピエロはチェーンソーをキャッチし、それぞれを足元に置き、エンジンを切った。
ピエロは一礼し、少しの間、静寂が砂漠を包み込んだ。
エレナは興奮しきって、気違いのように拍手をした。狂ったかのように手を打ち鳴らし、ピエロに賞賛を送った。
そのうちエレナが賞賛を送るのに疲れきり、静かになった。
ピエロは白いワゴンから一つのスケッチブックを取り出した。
そして、紙芝居をするかのように、ピエロはエレナたちにスケッチブックの表紙を見せた。ゆっくりと表紙がめくられる。その手振りはいやらしく見える。
スケッチブックの一ページ目にはこう書いてあった。
『紙幣のみ受け付けます』
助手席からスパナが飛んできた。
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